近視進行抑制部門 近視進行抑制部門

近視進行抑制部門

日本における近視の進行抑制を謳う治療法には、明確なエビデンスやコンセンサスが得られていない治療法が多くあります。先端近視センターの近視治療外来では、国際的に有効性が認められている治療法の中で、個々の患者さんにとって最適と考えられる治療法をご提案させていただきます。
近視進行を抑制するための治療を行なったとしても、完全に近視の進行が止まるわけではありません。近視治療外来では、近視進行度数予測計算表を用いて、有効な治療効果が得られているかどうかをモニターし、その効果を患者さんと共有することで、安心して治療を継続できるよう勤めております。
また近視の発症と進行には、個々の患者さんのライフスタイルが大きく影響しています。近視治療外来では、クラウクリップと呼ばれる小型のディバイスを眼鏡に装用して頂くことで、近視に影響を与える環境要因を詳細に計測することが可能です。その客観的なデータに基づき、個々の患者さんにとって、適切なライフスタイルの指導や治療法を提案させて頂きます。

レッドライト治療法被験者募集のお知らせ

最新の近視進行予防治療として注目されているレッドライト治療法を用いた検討が、8~18歳の小児の強度近視患者さんを対象に開始されます。

特定臨床研究:レッドライト治療法における被験者募集を締め切りました。皆様のご協力ありがとうございました。
~ 過去に実施した治験など ~

治験参加者が予定数に達したため募集を終了いたしました。ご協力有り難うございました。

  • 北アイルランドの疫学研究 the NICER studyの調査結果に基づいて、アルスター大学研究者らによって作成されたPreMoリスク評価表を許可を得て日本語訳しました。近視を重症化させないための早期管理にお役立てください。
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  • 日本眼科医会から、近視予防のための子ども向けの動画や漫画が配信されております!クリニックで配布したり、学校や各家庭でデジタル端末の適正使用と屋外活動について、子どもたちと話し合うためにご活用ください!
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  • International myopia institute(IMI) が作成した近視進行予防治療のエビデンスをまとめたインフォグラフィックを、IMIの許可を得て日本語訳を作成いたしました。下記のリンクからダウンロードできますので、ご利用ください。
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  • 先端近視センター治療外来では、近視管理に最適なOCULUS Myopia Master®を導入しました。
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  • 先端近視センター治療外来の予約が、眼科地域連携枠から独立して別枠で取得できるようになりました。
  • 先端近視センター治療外来では、小児近視手帳の配布を行なっております。
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近視進行度数予測計算表とは

近視治療外来では、治療効果を適切に評価できるように、近視進行度数予測計算表(図1)を用いて治療経過をモニターしております(近視進行度数予測計算表は開発元Brien Holden眼研究所の許可を得て使用しております)。治療の有効性を評価することができ、安心して治療を継続することが可能です。

近視進行度数予測計算表

下記のリンク先(許可を得て紹介)にアクセスし、ログインIDを作成すると近視進行予測表がご使用いただけます。日本語訳版も使用可能に改変頂きましたので、近視予測表の日本語言語ボタンを押してご使用ください。ご不明な点は、近視治療外来にてお問い合わせください。

近視進行度数予測計算表はこちら

クラウクリップを用いた適切なライフスタイルの指導

近視の発症と進行には、ライフスタイルが大きく影響します。従来のような、問診やアンケート調査を主体としたライフスタイル調査では、客観的で定量的な情報を得ることは難しく、的確な指導を行うことは難しいと考えております。新しく開発された小型ディバイスであるクラウクリップ(図2)は、眼鏡に装着することで、近見焦点距離、近業時間、照度、頭部の傾きなどの様々な情報を、負担なく収集できるように設計されています。近視治療外来では、これまで得られなかった信頼性の高い定量的データを用いて、個々の患者さんに対し、適切なライフスタイルの指導と治療の提案を行っております。

クラウクリップを用いた定量的環境要因の観測

近視進行抑制治療のご紹介

様々な近視進行抑制治療における比較試験の結果を解析した結果、有効性が認められた近視進行抑制治療には、低濃度アトロピン点眼、オルソケラトロジー、多焦点ソフトコンタクトレンズ、特殊な眼鏡や累進屈折力レンズ眼鏡などがあります。

1)低濃度アトロピン点眼 アトロピン点眼は、古くから小児の近視進行抑制に有効であることが知られていましたが、副作用(散瞳、調節麻痺、使用中断後の急速な近視進行)の問題から現実的に臨床での使用が難しいと考えられていました。しかし2012年にシンガポールのDonald TanらによるATOM2 study(The Atropine in the Treatment of Myopia Study 2)の結果から、1%アトロピン点眼を100倍に薄めた低濃度(0.01%)点眼で、屈折値で約60%の近視進行抑制効果を維持しながらも、同時に副作用の問題がほぼ解消されることが明らかとなり、一躍脚光をあびるようになりました。しかしながら、低濃度(0.01%)アトロピン点眼では、近視進行の本態である眼軸長の伸展抑制効果に関しては、屈折値ほど十分な抑制効果が示されておらず、また低濃度点眼の中での至適濃度も不明な状態でした。
そこで低濃度アトロピン点眼の眼軸長伸展抑制効果を含めた有効性と、安全性を評価し、至適濃度を決定するため、偽薬、0.01% 、0.025%、0.05%点眼を用いた2重盲検無作為化比較試験であるLAMP(Low-Concentration Atropine for Myopia Progression) studyが、中国のYamらによって行われております。各濃度の有効性、安全性がどのように示されるか、続報が待たれております。

2)オルソケラトロジー オルソケラトロジー(オルソ K)は、特殊な形状のハードコンタクトレンズを就寝時に装用することで、角膜上皮の形状変化から近視矯正効果を生じさせ、日中は矯正具なしで良好な裸眼視力を得ようとする屈折矯正法です(図1)。角膜中央の上皮が菲薄化し、周辺部が厚くなることで矯正効果を生じますが、圧迫できる上皮には限度があるため、矯正量はガイドラインでは4ジオプトリーまでとなっております。
既報の2年間の前向き試験による成績をまとめると、眼軸長伸展で3~6割の近視進行抑制効果が見積もられております。筑波大学の平岡らによって、10年以上に及ぶオルソ Kの小児の近視進行抑制に対する長期成績と安全性も報告されております。日本人のオルソ Kの近視進行抑制効果は、長期でも30%は期待できることが示されております。オルソ Kはその高いエビデンスレベルに基づく比較的確実な有効性と、着脱・管理を夜間に両親が行える点から、現時点で近視の専門診療において不可欠な選択肢の一つとなっております。小児にオルソ K治療を行う場合は、専門医の厳格な管理と、両親への適切な教育のもとで、選択された症例に処方を行うことが重要となっております。

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3)多焦点ソフトコンタクトレンズ 多焦点ソフトコンタクトレンズは、一般的に遠用の球面度数に近用の加入度数が付加された老視矯正のための遠近両用コンタクトレンズとして知られております。海外では各社が様々なデザインの多焦点ソフトコンタクトレンズを子どもの近視進行抑制のために開発しており、オルソケラトロジーに匹敵する有効性が示されはじめております。 しかしオルソケラトロジーと比べて負担が少なく、刺激が少ないため装用しやすいこと、また、使い捨てコンタクトに代表されるように、衛生面での管理が比較的容易なことから、国によっては、子どもの近視進行抑制のために使用される頻度は、低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジーを凌いでおります。しかし日中に装用するため、ゴミが入った時などに、自分で取り外すといった自己管理が可能な年齢になるまでは、使用できないため、比較的年齢が高い小児が対象となります。

4)特殊な眼鏡 海外では、周辺部の網膜に網膜の手前でピントが合う光をたくさん作用させたり、周辺部の網膜のコントラストを下げることで、近視進行を抑制しようとする眼鏡が販売されております。2020年ごろから海外で販売されるようになった、これらの新しいタイプの近視進行抑制眼鏡は、低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジー、多焦点ソフトコンタクトレンズと同様に、眼軸の延長が通常の眼鏡やコンタクトレンズ比で平均50~60%抑制されることが報告されはじめております。
眼鏡による治療であればより小さな子供でも簡単に可能であり、さらにコンタクトレンズや薬物療法と比較して、副作用がほとんど、またはまったくありません。しかし日本でこれらの新しい眼鏡を使用できるようになるには治験を行う必要があるため、現時点では使用できません。
これより以前の研究で用いられた方法には、『累進屈折力レンズ眼鏡』を使用して、近くを見るときの調節力を軽減させ、網膜の中心部における焦点ボケを防ぐことで、眼軸の延長を抑制する方法があります。「累進屈折力レンズ眼鏡」は、通常の眼鏡やコンタクトレンズに比べて平均10~20%の近視の進行を抑制することが判っており、この眼鏡であれば日本でも使用が可能です。しかし、効果が小さいことや、眼鏡の位置調整などに常に注意が必要なため、一般の眼科ではあまり推奨されていません。

5)レッドライト治療法(red light therapy) お子さまの近視を抑制するために 近年、近視研究者らの関心を最も集めているのが、レッドライト治療法(red light therapy)と呼ばれる治療方法です。 2014年に偶発的に、中国において長波長の650nmの赤色光が、過剰な眼軸延長を抑制する効果を有することが発見されました。 以降、中国国内では、このレッドライトに対するヒトでの近視進行予防効果の報告が集積しておりました。 2021年、アメリカ眼科学会雑誌に、レッドライト治療法の近視進行予防効果が発表されてからは、世界中で大きな話題となっています。 さらに長期的な検討も必要ですが、この治療で用いられる低出力の赤色光は、いわゆる可視光です。 中国では弱視治療に長年安全に使用されてきた実績がありますが、最近1例に網膜障害が生じた報告があることから、治療に関しては専門医による慎重な判断が必要です。 実施方法は非常に簡便で、たった1回3分、1日2回、可視光である650nmの赤色光を覗き込むことだけです。 治療を75%以上守ってきちんと実施してくれたコンプライアンスが良好な群のみを抽出した場合、その近視進行予防効果は実に90%近いものであった、と驚くべき報告がなされております。 さらに現在、近視発症前の子供に対するレッドライトの近視発症予防効果、ほかの治療との併用効果、一度伸びた眼軸を短くできるか(近視の改善効果)などを調査する大規模な比較試験が進行しており世界中の研究者が結果を待っているところです。